こんにちは、せいです。生物系研究者から会社員として働いています。
今回の記事では、博士の能力が活かせる職業をご紹介します。
「博士号を取得したら研究職かアカデミアでしょ」
「会社員として働きたいけど、博士で培った能力を活かしたい」
「博士号を活かせる職種って何?」
と考えている方達にぜひ読んでいただきたいです。
博士の能力とは
博士課程で身につけることができる能力とはどのようなものがあるでしょうか?
私が実際に博士課程を経て、博士号を取得した過程から身についたなと思う能力を紹介します。
専門性
私は学部生から博士課程まで一貫してショウジョウバエを用いた発生遺伝学を専門としていました。
ショウジョウバエの知識は会社員になって使えることはありませんが、例えば、どういった遺伝子がどういった組織で働いているかといったことは、ショウジョウバエとヒトで似ていることがあります。また論文を読んでいると、ショウジョウバエのある遺伝子が、ヒトのある疾患関連遺伝子と相同遺伝子であるといったような情報が記載されており、それが知識として蓄えられているため、情報のキャッチアップが早いと思います。
直接仕事に専門性が活かされることは少ないかもしれませんが、共通項を見つけることができればとても強い力になります。
論文を読むことも習慣化されているので、新しい知識を取り込むことも博士卒の人は他の人よりも比較的苦なくできるのではないかと思います。
論理的思考力
研究を行なっていると、研究の結果からどういった実験を今後組み立てていけば良いのか、論文にまとめるときにどういった構成で書いていくのかなど、論理的に考えることが鍛えられます。
また話の流れや辻褄が合っているのかということは、研究者はとてもシビアに見ています。博士課程ではそういった環境で揉まれるので、矛盾点はないか、説明できる根拠はあるのかなど非常に頭を使っています。
このように培われた能力はどんな職種でも活かされる能力の一つです。
仮説思考力
研究を進めていく上で、「きっとこうなるからこういった実験を進めていこう」ということを根拠をもって考えることは大切です。
博士課程の3年間(論文執筆を考えると実質2年程度)でできる限り成果を出し、まとめる必要があるにもかかわらず、闇雲に実験をしていてはいくら時間があっても足りません。ある程度当たりをつけて実験をしていく必要があります。
そのために必要なのは仮説思考力です。
仮説思考とは、限られた情報から問題解決や目標に近づくための仮説を持ち、闇雲ではなく、その仮説に基づいて情報を集め、実行、検証をして、修正を行なっていく思考方法のことです。
この仮説思考力によって、ただ情報を集めることに時間をかけることなく、何が必要そうかをあらかじめ見極めることで時間を節約し、適切な解に近づくことができます。
会社員として働く場合でも、この能力は限られた時間で成果を出していく上で、とても重要です。
観察能力
私は博士時代、毎日ショウジョウバエを観察していました。そのおかげで(?)、今でもその辺を飛んでいるショウジョウバエの雌雄を判別することができます。
観察するという力は、会社で働く上でも非常に役立つ能力です。
「この人はどういったことに価値を見出す人なのか」
「どういったことが苦手なのか」
「優しく接しなくてはいけないのか、背中を押した方がいいのか」
「冗談が通じるのか通じないのか」
博士課程の研究室よりも、多種多様な人たちと接する機会が会社ではあります。
その人たちの人となりを理解し、仕事をスムーズに回す上で観察能力は大切です。
疑う力
私がコンサルタントとして働いていた際、お客様から「こういったことを解決したいのだけれど・・」とそのためにこうしたことがしたいと相談されました。
しかし、これまでの知識や経験から、「〇〇をするよりも××といった方法の方が望んだことができます」と提案することができ、お客様から大変満足いただいた経験があります。
このような高評価をいただけたのは、情報を鵜呑みにせずに「本当にそれでいいの?」と疑うことができたからだと思います。
この疑う力というのは、博士時代に「本当にそういう結論が言えるのか」ということを常に考えながら論文を読んでいたおかげだと思います。
もちろんただ疑うのではなく、こうした方がいいのではないかという考えもセットであることが重要です。
博士の能力を活かすことのできる職業
前述したような、博士課程で身につけた能力を活かせるような職業はどういったものがあるのでしょうか。
今回の記事では大きく「博士の延長線上にある職業」と「博士の能力を応用できる職業」に分けられると考えています。
これらを順番に見ていきます。
博士の延長線上にある職業
博士の延長上にある職業とは、博士号取得者の能力が直接的に発揮できると考えられる職業です。
アカデミア
まず真っ先に想像をするのはアカデミアでしょう。
博士課程と同じ研究室でアカデミアでの研究を続ける人もいれば、他の研究室へいく人もいると思います。
どちらの場合でも、大きく研究分野を変えない限りは基本的に同じような能力が必要とされます。また、他の職業に比べて、自分がやりたいと思うことを研究することができます。
知的好奇心を満たしたい、新しいことを発見したいと思う人たちには人気のある職業だと思います。また、博士課程で培った能力が最も活かされるでしょう。
一方で、まだまだ日本のアカデミアに対する待遇はいいとは言えず、一部の優秀な研究者以外の方々は生活の面で苦労することとなります。パーマネントの職につけず、数年おきに研究室を点々とする可能性があります。
自分の好きなことができると思っていても、その研究室が人を雇用できない状況にあると、必ずしも望んだ研究室に入れないというのが現実かもしれません。
研究職
研究職もアカデミアと同様に、博士号取得者が就く職業として想像されると思います。
アカデミアと同様に、新しい発見をしたいという人には向いている職業だと思います。また、アカデミアよりも安定した職業であり、経済的な不安を抱えることはないでしょう。
またアカデミアと企業といった違いはあるにせよ、博士課程で培った能力も十分に活かすことのできる職業です。
一方で、自分がやりたい研究をできるかどうかは会社に依存します。会社は利益を出す必要があるので、自分自身がやりたい研究が会社に利益をもたらすものでなければ、やりたくてもできない可能性が高いです。
博士の能力を応用できる職業
博士の能力を応用できる職業とは、博士課程で培った能力が重宝されるような職業です。博士で培った能力だけでなく、ドメイン知識やビジネススキルなど他の能力を組み合わせることが必要となります。
また、自分自身は研究を行いませんが、研究の発展や貢献に関与できる職業のことをさします。
学術営業
学術営業とは、専門性の高い顧客に対して営業活動を行う職業です。
高い専門性を有していなければ、顧客との対話もままなりません。そのため、博士号を取得した高い専門性や能力を持つ人たちが、非常に重宝されます。
私がいた遺伝子検査会社では、学術営業の方々のおかげで病院との共同研究が決まった例が多数あります。その成果が論文にもなりました。
このように、学術営業は博士の能力を活かしつつ、顧客の研究成果にも貢献できる職業の一つです。
一方で、学術営業だからといって必ずしも共同研究ができるとは限りません。また、営業職のため顧客との関係性構築や維持をするための高いコミュニケーション能力が必要です。
ベンチャーキャピタリスト
最近は大学発ベンチャーが多数出現してきました。
ベンチャー企業の運営で重要な要素の一つは、資金をどう調達してくるのかという点です。
その資金調達の方法の一つがベンチャーキャピタルです。
ベンチャーキャピタルは、高い成長が予想されるベンチャー企業やスタートアップ企業に対して投資を行う投資会社のことです。資金を投資するだけでなく、経営支援を行い価値向上を図ることでキャピタルゲインが高まるような支援を行います。
大学発のベンチャー企業などの場合、今後この企業が成長できるのかどうかを判断する上で、博士で培った能力を活かすことができるでしょう。また、自分が投資判断をしたベンチャー企業が成長することで、研究成果の価値を世の中に伝えることに貢献することができます。
一方で、博士の能力以外にも投資や経営の知識・経験を積むことが重要です。
事業開発
生命科学系で博士号を取得した方は、例えばヘルスケアやライフサイエンスなどの企業で新しい事業を考える上で、博士の能力を活かすことができます。
私は遺伝子検査会社で新規事業を考える部署で働いた経験があります。
遺伝子の構造や検査に活かせる生命現象などから新しい検査を考えることができ、博士で培った専門性を活かすことができました。
また、経営会議でプレゼンテーションをする機会があり、どういった情報を誰に向けて話せば納得・決断してもらえそうかを考え、資料作成など会議の準備をしてきました。博士課程を経験したからこそスムーズに経営会議を進めることができたと思います。
一方で、自分の専門に近い業界(私の場合はライフサイエンスやヘルスケア)以外の企業での事業開発には、博士の能力を活かすのは難しいかもしれません。またマーケティング能力や企画力など、研究では身に付きづらい能力を身につける必要があります。
コンサルタント
博士の能力を活かせる職業の最後は、コンサルタントです。
私自身がコンサルタントとして働き、博士の能力を活かせているなと実感しています。
コンサルタントは、顧客の課題を発見し解決することを仕事としています。
顧客の課題は何かを見極め、仮説をたて検証し、修正していく。顧客の誰に何を訴えればいいのか、どう伝えればいいのか。このようなプロセスが、研究に似ているなと感じています。
また、ライフサイエンスの業界に特化したコンサルタントもおり、うまく応用することで専門性も活かすことができます。企業の研究部門の方と業務を行うこともあり、自分が課題を解決することで研究の発展に貢献する実感も得られます。
研究分野に特化しているコンサルタントはまだ少ないですが、例えば創薬研究者によって作られた薬をどう患者に届けるのか、製薬企業の業務をどう改善していくのかを考えることで間接的に研究成果を世の中に出すことに貢献することができます。
そのため、担当する顧客に応じたビジネススキルが必要になってきます。
おわりに
今回の記事では、博士の能力を活かせる職業を紹介しました。
博士の能力を活かせる職業は大きく分けて、「博士の延長線上にある職業」と「博士の能力を応用できる職業」があると考えています。
多くの博士号取得者は、「専門性を活かしたい」「知的好奇心を満たしたい」「新しいことを発見できる職業に就きたい」といったように、前者の職業を選択することが多いかと思います。
私自身も「博士号を取得したら、アカデミアか研究職」だと思っていました。
しかし、実際にアカデミアでもなく研究職でもなく、コンサルタントという職種に就いてみた結果、専門性を高く評価され、奥の深いビジネスに触れて知的好奇心が満たされ、新しいことを発見する人たちを動かす喜びを感じました。
博士号取得者の方々には、もちろんアカデミアや研究職は素敵な職業ですが、それ以外にも面白い職業は数多くあることを知っていただき、ご自身にあった仕事ができることを祈っています。
コンサルタントをオススメする理由はこちらの記事から。
博士の就活方法はこちらの記事から。
それでは、また。
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